経済学で出る数学
ワークブックでじっくり攻める:応用問題
貯蓄の積立に関する理解度
『経出る』p.56脚註には,金融広報中央委員会のアンケートが取り上げられている.『経出る』で触れられているのは「子どものくらしとお金に関する調査」だが,ここでは「金融に関する消費者アンケート調査」($20$歳以上の男女対象)からつぎのアンケートを取り上げたい.
同じ年の A さんと B さんがいます.A さんは 25 歳のとき,銀行に毎年 20 万円ずつ預 入し始めましたが,B さんはしていません.50 歳になったとき,B さんは退職後の生活 に備えてお金が必要だと気付き,銀行に毎年 40 万円ずつ預入し始めましたが,A さんの 預入は相変わらず毎年 20 万円ずつのままです.さて,2 人が 75 歳になったとき,どちらが多くのお金 (預金残高) をもっているでしょうか.
平成15年に行われた,第2回調査の結果は以下の通り.
- 2 人とも同額を預入したので,同額を保有している(8.7%)
- A さん.長期にわたって貯蓄して運用されているから(71.3)
- B さん.1年間の貯蓄額が A さんより多いから(2.9%)
- よくわからない(16.7%)
回答はそこそこの正答率だろう.本問ではこの事実を検証したい.
【問】 毎年 $a$ 円を $2n$ 年積み立てたAさんの預金残高を $S_A$ とし,
毎年 $2a$ 円を $n$ 年積み立てたBさんの預金残高を $S_B$ とする.このとき, $S_A \geq S_B$ となることを示しなさい.ただし利子率を $r$ とする.
【解答】
- Aさん:
\[
\begin{array}{rcccccccccc}
S_{A}&=&a&+&a(1+r)&+&\cdots&+&a(1+r)^{2n-1}& & \\
(1+r)S_{A}&=& & &a(1+r)&+&\cdots&+&a(1+r)^{2n-1}&+&a(1+r)^{2n}\\\hline
rS_{A}&=&-a& & & & & & &+&a(1+r)^{2n}
\end{array}
\]
\begin{equation}
S_{A}=\frac{ \ a \ }{r}\Bigl\{(1+r)^{2n}-1\Bigr\}.
\end{equation}
- Bさん:
\[
\begin{array}{rcccccccccc}
S_{B}&=&2a&+&2a(1+r)&+&\cdots&+&2a(1+r)^{n-1}& & \\
(1+r)S_{A}&=& & &2a(1+r)&+&\cdots&+&2a(1+r)^{n-1}&+&2a(1+r)^{n}\\\hline
rS_{B}&=&-2a& & & & & & &+&2a(1+r)^{n}
\end{array}
\]
\begin{equation}
S_{B}=\frac{ \ 2a \ }{r}\Bigl\{(1+r)^{n}-1\Bigr\}.
\end{equation}
-
$S_A \geq S_B$ の確認:
\begin{align}
S_A \geq S_B&\Longleftrightarrow (1+r)^{2n}-1\geq 2(1+r)^{n}-2\\[2ex]
&\Longleftrightarrow (1+r)^{2n}+1\geq 2(1+r)^{n}\\[2ex]
&\Longleftrightarrow (1+r)^{n}+\dfrac{1}{(1+r)^{n}}\geq 2\\[2ex]
\end{align}
最後の不等式は,$相加平均 \geq 相乗平均$ の関係式から直ちにしたがう.ちなみに等号が成立するのは,$(1+r)^{n}=\dfrac{1}{(1+r)^{n}}$ のときだから,$r=0$ のときである.
【解答終】
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