経済学で出る数学

ワークブックでじっくり攻める:応用問題


多期間消費モデル.【『経出る』練習問題6.5発展】


【問】 $T$期間消費モデルを考える.第0期の所得を $y_0$ ,第2期の所得を $y_2$,第T期の所得を $y_T$,利子率を $r$ とする.第1期の消費額を $c_0$,第2期の消費額を $c_2$ ,第T期の消費額を $c_T$として,ライフサイクル仮説のもとでの生涯の予算制約式を求め,ベクトルの内積で表示しなさい.

【解答】
 第0期の貯蓄を $s_0$ で表すと,第0期の予算制約は \[ y_0-c_0=s_0 \]  第 $1$ 期の貯蓄の割引現在価値を $s_1$ で表すと,第 $1$期の予算制約は \[ \dfrac{y_1-c_1}{(1+r)}=s_1 \] 第 $2$ 期の貯蓄の割引現在価値を $s_2$ で表すと,第 $2$ 期の予算制約は \[ \dfrac{y_2-c_2}{(1+r)^2}=s_2 \] 第 $T$ 期の貯蓄の割引現在価値を $s_T$ で表すと,第 $T$ 期の予算制約は \[ \dfrac{y_T-c_T}{(1+r)^T}=s_T \] $1$ から $T$ の和を取れば, \[ y_0+\dfrac{y_1}{(1+r)}+\dfrac{y_2}{(1+r)^2}+\cdots +\dfrac{y_T}{(1+r)^T} -\Bigl(c_0+\dfrac{c_1}{(1+r)}+\dfrac{c_2}{(1+r)^2}+\cdots +\dfrac{c_T}{(1+r)^T}\Bigr) =s_0+s_1+\cdots + s_T \] ライフサイクル仮説から $s_0+s_1+\cdots + s_T =0$ なので, \[ y_0+\dfrac{y_1}{(1+r)}+\dfrac{y_2}{(1+r)^2}+\cdots +\dfrac{y_T}{(1+r)^T} =c_0+\dfrac{c_1}{(1+r)}+\dfrac{c_2}{(1+r)^2}+\cdots +\dfrac{c_T}{(1+r)^T} \] という多期間モデルの予算制約式を得る.この式では生涯消費の現在価値=生涯所得の現在価値 という経済学的解釈を得る. $\boldsymbol{y}=\begin{pmatrix}y_0 \\ y_1\\ \vdots \\ y_T\end{pmatrix}$ , $\boldsymbol{c}=\begin{pmatrix}c_0 \\ c_1\\ \vdots \\ c_T\end{pmatrix}$ , $\boldsymbol{r}=\begin{pmatrix}1 \\ \dfrac{1}{(1+r)}\\ \vdots \\ \dfrac{1}{(1+r)^T}\end{pmatrix}$ とすると,(3) 式は $\boldsymbol{r}\cdot \boldsymbol{y}=\boldsymbol{c}\cdot \boldsymbol{r}$ すなわち, $(\boldsymbol{y}-\boldsymbol{c})\cdot \boldsymbol{r}=0$ と書け, ベクトル $\boldsymbol{y}-\boldsymbol{c}$ と ベクトル $\boldsymbol{r}$ が直交していることを示している.
【解答終】

【メモ】
ライフサイクル仮説とは,個人の貯蓄(借入金)の総計が終末期には$0$になるように行動するという仮説.ここでは終末期の貯蓄残高の累計を現在価値に割引いてそれを$0$とおくことによって,予算制約式を得た.こんなやり方でよかったのかどうか分からない(笑).
【メモ終】

【Further Reading】
大垣昌夫・田中沙織『行動経済学』有斐閣(2014)
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